人間ドックに行った。

私は常に、心があまり元気でないので、問診票の、落ち込むことがありますかとかイライラすることがありますかという欄は、いつもスルーするのだけれど、今回は全てにチェックを入れた。

白髪の溌剌としたミドルシニアのお医者さんは、血液検査の結果を見ながら、あなた栄養不足ですよと言った。肉を食べなさいと言った。鉄分とたんぱく質が足りないから、イライラしたり悲しくなったりするんですよと言った。肉を食べなさいと言った。栄養が足りないとセロトニンが云々かんぬんと言った。肉を食べなさいと何度も言った。

私の、夫婦同姓によって引き起こされたと思われる悲しみも、栄養不足によるものですか?毎日さらさらと自分がすり減っていく感覚も、たんぱく質が足りないからですか。奥さまと呼ばれたり、夫の姓で呼ばれるたびに、どこからかぴうと風が吹いて私は砂のようにさらさらと、少しずつこぼれていってしまうのですけれども、それもたんぱく質が足りないからですか。肉を食えばいいんですか。

スタッフさんが、奥さまお疲れ様でした、こちら院内のレストランで使えるサービス券になります、とチケットをくれる。私はさらさらこぼれながらそれを受け取る。

レストランはとても混んでいて、入院中の人やお見舞いの人で賑わっている。病院内のレストランにも関わらず、店員さんはピシっとしたウエイターの格好をして、一人ひとりに丁寧な接客をしている。そういうところに癒やされる人も多いだろうな、と感心する。

周りの人は少し疲れた顔をして、700~1000円くらいのメニューを食べている。私はサービス券を使い、1600円のビーフシチューを頼んだ。健康そうな顔をして高いものを食べることに少し躊躇したが、悲しいのだかむかつくのだかなんだか分からない自分の頼りなさを、肉と一緒に咀嚼するしかないのだった。