ちょっとした一瞬に過去の出来事が頭の中にふっと現れることが結構ある。何かを見たり聞いたりしている時にどこかに飛んでる時があるよねと言われたことがあるけど、多分そういう時なんだと思う。ワープ。過去の出来事だけじゃなくて、考え事に飛んでいる時もあるんだけど。
わたしはiPhoneをジップロックに入れてお風呂に入るんだけど、この前は門脇麦が出てる映画を湯船に浸かって見ていたら、幼稚園の時ぐらいの記憶が頭の中で再生された。記憶が湧くと脳みその見る部分が映像から移動して記憶を見始めるから、そうなった時は映像をあんまり見れてない。
でも確か映画の中では、子どもの頃ゴミ捨て場で拾ったキラキラのビー玉やおもちゃのカケラを宝箱にしまっていたのに、ある日ひと言もなく汚いからと母親が捨ててしまったというエピソードだった。はず。
この映像が流れた後にわたしの頭の中では、遊んでいた通り道のゴミ捨て場に捨てられた、たしか3種類のとても愛らしいバナナなどをモチーフにした笛がある記憶が流れ始めた。
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幼馴染と遊んでいてその笛に心奪われてしまったわたしは、持ち主は近くにいるか、そこの団地に住む人のものなんじゃないか、でもゴミ捨て場に捨ててある。持ち帰りたいと思った。
笛だったこともあって、それを持ち帰るのは良くないと説得を試みていた幼馴染にも怯むことなくわたしは頑なだった。呪いの笛かもしれないよと、いつもはすぐ怖がるわたしも、こんなに可愛い笛が呪われてるわけないと言い返した。そしたらお母さんに相談しに行こうと一緒に家に帰った。
お母さんにも、誰が吹いたかわからないゴミ捨て場に捨てられた笛は持って帰って欲しくないと反対された。
今思えば何も袋に入っていない、他にゴミも近くにない、ただ捨てられてる可愛らしい笛とは怪しさ満点だけど、当時はゴミ袋も有料じゃなかったし、90年代中頃のゴミ捨て場の秩序はどんなだったんだろう。
幼馴染は自分の家に帰り、わたしはそれでも説得を続けた。まぁ説得なんて言葉で言うけど要は駄々をこねるだったと思う。
ゴミ捨て場に捨てられてるってことは収集されたらもう2度と戻ってこないこと、あんなに可愛い笛は見たことがないこと、こうしている間にあの笛が無くなっちゃったらどうするんだ。こんなことを言葉で言えたかどうかは覚えていないけど、思ってたことは覚えてる。どうにか説得にかかった。
持って帰ってきたらお母さんがよく洗うけどそれでもいいのか、と、よくよく洗ったとしても吹いてはいけないよ、と、どれかひとつしか持って帰ってきてはいけないよ、と。お母さんは渋々だったけど了解を出した。
もう19時近くになっていて、そんな時間にひとりで外に出たことがなかったけれど、本当に欲しいなら1人で取ってこいと外に出された。
薄暗い中で、いつもは道ない道を進んでいたけどこわいから人がいる道を通って、ドキドキしながらゴミ捨て場に向かった。
もう無かったらどうしよう、ごみ収集は朝だからきっと大丈夫、3つのうちどれにしよう、あんなに良い笛だから持ち主が戻ってくるかな、きっとわたしより少し年下の子の物だったかな、お母さんが捨てたのか自分で落としちゃったのか、お母さんが何かしらその子を怒って捨てたとしたらやだな。みたいなことを思いながら着いたゴミ捨て場にはまだ笛が残ってた。
その場で少し悩んで、バナナの笛を選んだ。たしか他は花の形になってる笛と、もう1つはやっぱり思い出せない。あれだけ言われたので吹く部分には触れないように、首にかける紐のところを手に持って家まで帰った。
お母さんはよくよくよく洗った。わたしはティッシュで拭いて、眺めるのもほどほどにお風呂に入った。帰ってきたお姉ちゃんやお父さんに自慢して、そのバナナの笛はわたしのものになった。
半年ぐらいして、こんなに普通に家に毎日あるこの笛をなんで吹いちゃいけないのか疑問に思った。出地はゴミ捨て場だけど、これは笛だし、笛なのに吹いてもらえない笛はかわいそうじゃん、どんな音がするかも知らないし。
お母さんが出かけている留守番の日に笛を吹いてみることにした。
いけないことをしてる罪悪感と、どんな音がするかの興味で不思議な心持ちだった。
緊張しながら吹いた笛音はスカスカで、笛じゃなくても鳴りそうなぐらいの音だった。
いやいや、そんなことがあってたまるか?忍たま乱太郎で先生が、笛の下にベロを当ててちゃんと吹くと音がよく鳴るって言ってたことがあるし、、何度も試してみて一番最初よりは少し音が鳴ったけど、思い描く笛の音ではなかった。
そこからわたしは笛への興味がなくなった。
1回だけ情けで出かける時に持って行ったぐらいで、いつどこにやったかも覚えてない。
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こんなことを思い出した。
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頭に再生された記憶を文字化するのって、一直線上に出来事の流れをなぞっていくような感じだった。それを出力すると、再生された時には思いもしなかったこういうこと?が見えてきて、印象ができた。
記憶の一部でしかなかったけど、自分の中にある残虐さに気が付いた、人に話しながら、というのも記憶を文字化してる途中に最後まで話してしまったから。
内にある間は良いでも悪いでもない靄のかかったたひとかたまりみたいな、圧縮されたファイルって感じだったけど、結末に向かうにつれて話しながらかなりゾッとしたのと同時にめっちゃ面白いとも思った。
文字化してったものが文章になったんだと理解した。なんでもないと思ってたことが残虐的だと気が付いた時に、紐だと思っていたものがくるっと回転して地下に隠れていた凹凸が出てきて立体物になったようだった。
映画を再生しながら自分の脳内にシフトしてった時に、漠然と文章にして人に見せようかなと重い腰が上がったのは、この残虐さを内に秘めた出来事だったからなのか、と思った。バナナの笛に申し訳ないことをしたなと思う。気付いてなかった自分の残虐さを見た。
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ps.もしかしたらたしかに呪いの笛だったのかもしれないし、呪いを解いた笛だったのかも。
こんにちは