肌なんて、ただの皮

>>Memory.3

とても仲良しな友達がいます。
名前はサキ(仮名)です。
サキはテニス部で、運動神経が良く、笑顔がとても可愛い子です。
手足もスラリと長くて、私が大嫌いな数学が得意です。
でも、そんなサキには悩みがあります。
それは、ニキビがあることです。
ひどい肌荒れを気にして、洗顔フォームやニキビの薬の話を私によくします。
「ともちゃんはニキビがなくていいね」
サキが言います。
私も一粒もニキビがないわけではありませんが、すぐに治ってしまいます。
だから、サキには私にニキビがないように見えるのです。
実際、そんなに悩んでいないのは事実です。
でもサキが、たまにトイレで鏡を見ながら泣きそうになっている姿を見ると、それは絶対に言えません。
ある日、私は母に尋ねました。
「どうやったらニキビってできなくなるの?」
すると、母はこう言いました。
「知らない! できたことないもん」
私はショックでしたが、やっぱりな、と思いました。
私と母の肌質はとても似ているからです。
乾燥しやすくて、夜寝る前はクリームを塗らないといけません。
少し前、サキが資生堂の「肌水」を持っていたので、私も真似して買いました。
しかし、寝る前に使ってみたら、顔がムズムズして眠れなくなりました。
翌朝、赤い吹き出物が3つ4つほっぺたにでき、私は慌てて母に聞きました。
「あたしもソレ(肌水)合わないよ。コマーシャルでやってるし、安いから買ってみたけどさ。使うと痒くなる。なんでアンタ買ったの? 小遣い無駄にすんなバカ」
私は母にムカつきました。
学校でサキに「私も肌水使ったよ。あれ、いいね!」と言うつもりでしたが、できなくなりました。
私はかゆい顔をかきながら、サキの悩みを実感しました。
「吹き出物が顔にあるだけで、こんなにも気分が落ち込むなんて」
それから治るまで、自分の顔を見るたびに悲しくなりました。
サキはいつもこんな気持ちなんだね。
言葉で慰めてもダメなのは、なんとなく感じていました。
だからやっぱりニキビをなくすしか、サキを元気にする方法はないのです。
私の吹き出物は数日のうちに治りましたが、サキのニキビはいつ治るかも分からない。
どうしたらサキは悩まなくなるんだろう。
この世からニキビなんで消えてしまえばいいのに。

>>Katharsis.3

記憶の欠片を拾った。
中学一年生、13歳のともちゃんの記憶である。

理科の授業で、骨格模型の「ボーン君3世」(我が中学3代目の骨格模型)を前にし、教師の「ワハハ本舗」(通称ワハハ)が放った一言を思い出す。
「ワッハッハ! 人間は皮を剥いだら、みんなこれなのだ!」
そう。誰しもこの姿なのだ。
顔や髪なんて、文庫本に付けているただのカバーのようなものだし、もっとも表面的な衣類は、カバーに描かれた絵柄に過ぎない。
それなのに人間はカバーの見かけが良いと、その本の内容まで素晴らしいと錯覚するから厄介なのだ。
どんなに美形でも、美肌でも、美声でも、みんなボーン君3世に変わりないのに。
それなのに、人は悩むことはおろか、争いごとをやめられない。
と、それは視野を拡大して考えられる今だからこそ言える、というのは分かっている。
人間がボーン君3世になるのは、感電した時と、死んだ時だというのも。
正直、もうサキのニキビについて語ることは何もない。
ともちゃんはただ、サキがいればそれで良かったのだ。
ニキビが治ってほしいと思っていた以上に、サキと友達で居続けたかっただけである。
休み時間のおしゃべり、同じ委員会に入る、休日はお互いの家でお菓子を食べる。
ともちゃんはサキと過ごすそうした時間に喜びを感じていた。

「サキも私も、皮を剥いたらボーン君3世なんだから」
あの時、きっとともちゃんはこんな事が言いたかったのではないか。
全く当てにならない母の助言を仰いだり、色々試みることはした。
しかし結局は言葉に出来なかったもどかしさが、しぶとく記憶に留まり続けるものだ。
「だから何? それで私のニキビが治るの?」
と、真顔でサキは言うだろうか。
いや。少なくとも、”ともちゃん”が知っているサキは、こう言うと思う。
「ともちゃん、何言ってるの? それよりさ、今、ボーン君2世ってどこにいると思う? お姉ちゃんが言うにはね…」

そうだ、肌なんて、ただの皮一枚なのだ。