デザイナーに向いてないのかも。

≫≫Memory.2

デザインってものに違和感を持ち始めたんだよね。
学校の授業でさ、課題の提出があって、講評の時間があるんだけどね。
作品の完成度じゃなく、作ったものをこねくり回して、上手に説明できた人に先生やみんなの評価が集まるの。
うまく言えないんだけど、例えば真っ白な画用紙1枚を完成品として提出した人がいたとするじゃん。
で、作品を紹介するときにね、なんか本当かなぁ?って思っちゃう――――
「この真っ白な画用紙は未知を表現した。そして未知とは自由と背中合わせだとも言える。
自分が思っている以上に世界はフリーダムであることのイメージ広告を作りたかった。
それを表現するには、余計なものを描かない方がメッセージ性は強まると感じた。
よって、この作品は真っ白なのである」――――みたいなことをベラベラ喋る人、いるんだよね。
もうさ、笑っちゃうよね。それ本気かよ、って。
ただ単に時間がなかったから、昨日徹夜でその壮大な言い訳を考えてきたんじゃないの?って。
こんな作品に評価が集まることが全く納得できないの。
デザインってさ、こう、もっと、世間のことを知っていて、いい意味でミーハーで、その上で心を動かすような感動だったり、人々に熱意を起こさせる役割をするものなんじゃないかな。
そしてそれを最適なビジュアルや文字に変換させて表現するのがデザイナーでしょ?
…と思ってたけど、なんか、違うっぽいよね。
なんとなく出来上がったものに、目一杯のアクセサリーを付けるのがデザインなんだよね。
付けまくったアクセサリーをひとつずつ丁寧に説明するのがデザイナーの仕事。
なんか、私、こんな仕事に就くために、大学に入ったのかなぁって。
あ、あとね、最近さ、努力しても補えない感覚的な部分ってやっぱあるんだなぁって。
そういうことも感じたりするんだよね。
なんて言うかさ、優劣は努力で補えるけど、センスや素質って生まれながらのものじゃん。
だからさ、真っ白の画用紙出す人もさ、ある意味では素質あるのかなって思うの。
私はズルいやり方としか思わないんだけど、みんなの評価を集められるんだから、やっぱそういうことだよね。
デザインの世界って、こういうことで成り立ってるのかな。
自分が納得できないことも、その他大勢の人に共感されて、コンペに通れば、どんな表現だろうとOKになる。
何日も徹夜して、会社に泊まり込みして、上司に怒られて、それでようやく出来上がったものがさ、真っ白な画用紙一枚に負けることだってあるんだよね。
そんな世界、超悲しいよ。

≫≫Katharsis.2

記憶のかけらを拾いました。
大学生も3年目になり、進路を考えているともちゃん。
デザイナーの存在と向き合う記憶です。

デザインってなんだろう?
授業を受ければ受けるほどに、分からなくなっていました。
その疑問を解決すべく、ともちゃんは有名なデザイナーたちの本をよく読んでいました。
あるデザイナーは、先人の表現を受け継ぎつつも、時代に合わせたデザインを主とした考えで、
またあるデザイナーは、シンプルさを追求し、本質を丸見えにすることを主とした考えでありました。
表現の道は十人十色であれど、どのデザイナーも、時代の流れるさま、人々が求めているものを敏感に受け止めた上で、
最適なデザインを考え抜く人であることは共通していました。
ともちゃんは、デザインは、そしてデザイナーは柔軟でなければならないと思いました。
本を読むようになってから、ともちゃんの作品は変わりました。
自分がどうしたいか、何を描きたいかではなく、伝えるべきものは何なのかを重点的に考えるようになったのです。
ずるいデザインで、みんなの評価をもらう人のようにはなりたくないと思いました。
しかし、ともちゃんのデザインはダメでした。
卒業制作の中間発表で、先生たちに「いくらなんでも悪趣味」「ふざけているのかな」と散々な言われ方をされてしまったのです。
その後、ともちゃんはデザイナーになる道を諦め、普通の会社員になることを決意しました。

***

一生懸命デザイナーになろうと考えていたともちゃん。
努力をしても報われない憤りを常に感じていた。
デザインに対する正義感と、評価の現実がぶつかり合って、ついに夢は粉々に砕け散ってしまった。
まぁ、先生に褒められるためのデザインをしたり、ずるいデザインをしたりして上手に立ち回れば、もっと違う未来だったかもしれないね。
でもね、結局さ、そういうことしたって、ともちゃん、ダメだと思うんだよ。絶対途中で辞めちゃうし。
それよりさ、卒業制作の話を笑い話にして友だちに聞かせると、みんなすごく興味を持ってくれるんだよ。
中には「時代の先を行きすぎていた!」と言ってくれる人もいたし、「良い先生に巡り会うのは運」と言う人もいた。
今は、もうそれだけで十分だと思ってるんだ。
何が間違いで正しかったかは、全く問題じゃないのに気付いたんだよ。
だからもう、デザイナーに向いてない、じゃなくて、「ならない選択をした」ってことでいいんじゃない?