ここに入植をはじめたのは、わたしの家系だとおばあちゃんの代からだった。おばあちゃんはそのときすでにおばあちゃんだったから、途中から人間になるには遅すぎて、もう一度生まれなおす必要があった。だから、前の記憶を持ちながら人間の赤ちゃんとしてここに存在することができた。それってすごくうらやましい。わたしも赤ちゃんの頃からここで暮らしてみたかったなとおもう。わたしがここに来る年齢までの思い出はぜんぶ作りもので、ほとんどがシリアスでない、どことなくほほえましい感じのものだ。ソフィーがお気に入りのエピソードだってそう。赤ちゃんなのにミルクを飲みながら「おいしい」と言ったという話。ソフィーはそれを聞いて、「あなたは今でもグルメだものね」と笑った。
ほんとうのわたしはずいぶん大きくなるまで一言も話さなかった。言葉を発することはできたけれど、いつかほんとうに話したいとおもえる人に出会うまで、何も言いたくなかっただけだった。
校閲者として働いたり、文章を書いたりして暮らしています。