sleepiness

 特に理由のない夜ふかしを続けていたら、睡眠がおかしなことになってきた。以前病院で、眠れないときのために睡眠導入剤をもらっていたのだけど、あれを飲むと眠くなりすぎるし、理由のない夜ふかしが原因で飲むものでもないような気がして飲んでいない。そういえば天神に、眠気を売っている店があったことを思い出してググる。そこは800年の歴史を誇る「世界最古の薬局」らしく、少し前に天神にも旗艦店ができたのだった。

 天神に出たついでに軽い気持ちでその店に行ったところ、思っていた以上に高級な感じのする店で、最近買ったばかりのadidasのジャージを羽織っている僕が入っていいものか戸惑った。明らかに冷やかしと思われた方が気が楽かもしれないと思い直し、店に入る。どんな格好の人間にも分け隔てなく接客するその余裕が、余計にその店が高級店であることを感じさせる。
「眠気があるって聞いたんですが……」意を決して店員の女性に話しかける。
「いま当店では25種類の眠気を取りそろえております」女性は穏やかに答える。
 25種類もあるのか。聞けば、大きく分けて「安眠」「快眠」「熟睡」「夢見用」「昼寝用」の5つに分類され、それぞれに約5種類ずつ、微妙に違いのある眠気があるらしい。安眠と快眠の違いがわからなかったけれども、スッと眠るか寝てすっきりするかの違いとのことで、なんとなくわかった気になった。

「お試しになりますか?」と訊かれ、「試せるんですか?」と訊き返してしまった。
「あまり多量でなければ。あくびが出る程度ですむので」

 それで、「安眠」の中の「やすらぎ」を試させてもらった。眠気は瓶に詰められていて、気体だから見えない。それを少量スポイトですくって、ビニール袋に吹き込む。ビニール袋の中の気体を吸い込むと、薄くラベンダーの匂いがした。

「もともと眠気には匂いはないんですけどね。匂いがないと、眠気がどこにあるかわからないから、あえて匂いをつけてあるんです。家庭用のガスなんかといっしょですね」

 説明を話半分で聞きながら、ついあくびをしてしまう。高校のときの、退屈な授業を受けているあの感じを思い出した。
「ちょっとボーッとしますよね?」そう尋ねられて、あ、これが眠気か、と実感した。1リットル買って帰った。12,000円だった。

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