「我が町の目玉は透明な山!」
と町長は声を大にして言った。町は平野で、山どころか森もない。
苦し紛れに無いものをあることにし、
『観光客欲しさに、町長ご乱心か?』とネットで小さく話題になった。

 嘘つきの町長がいる町として定着してきた頃、ひとりの男がやって来た。
彼は、名高い山は全て制覇した登山家だった。そして変わり者だった。
決してふざけてなどいない。透明な山の噂を耳にした彼は、完璧な装備で山に向き合った。
何も無い空を見上げて、登山家は山を登り始めた。本当に登り始めた。
周りから見ると、重装備の男が宙に浮いている光景。
空気を一歩ずつ踏みしめて、じわじわ高い所へ移動していく。
透明な山は本当にあった。

 町長は、宙に浮かぶ男を見て腰を抜かし気絶した。
透明な山は一瞬で話題になり、すぐに無数の人々が押し寄せた。
Twitterのトレンドにも入った。
山裾は人で覆われ、形をあらわにしていく。
登山家は一人離れた高い所で、見えない頂を目指している。

 その時突然、山が揺れた。音はしない。
人々がざわつく声が響き、山は崩れた。
宙に浮いていた人たちは地面に叩きつけられ、登山家は救急車で運ばれた。

 透明な山は消えた。町の風景は何も変わらない。