小学校低学年の頃だったと思う。
乳歯が抜け始める時期が訪れた。歯がぽろっと抜けたあの感覚は今でも鮮明に覚えている。

抜けた歯は「上の歯は縁の下に、下の歯は屋根に投げよ」という話を大人が教えてくれた。丈夫な永久歯が生えるとかそういう感じだったと思う。

わたしはそのアドバイスを無視し、上下かまわず抜けた歯を庭に埋め、毎日のように水をやった。

そこには昔、桜の木が植えてあった。 わたしが生まれた記念にと植えられた木だったが、様々な理由から伐採され、切り株だけが残っていた。わたしは切り株の根元に歯を埋めた。

何故そのような植物の種子を扱うかのような振る舞いをしたのか理由はわからないけれど、その切り株を天国への出入口みたいに感じていたことは覚えている。 
今になって思えば、消えてなくなっていったものとどこかで繋がれる(気持ちになれる)場所が欲しかったのだろう。