私の中には2人の女がいて、片方が片方に恋をしていたが、その恋にまったく望みなく、あるとき手酷く振られてしまう。

彼女らは無理心中を図った。
私は死んでしまった。
死んだ私の切り口から、わたしたちがまろび出る。
いくらかのわたしたちは獣などだったので、外に出るなり何処かへ逃げ去った。
わたしたちは各々の心のままに動けたから、一人であったときの私を不憫にすら思った。

皆遠くへ発った。
私の死骸のそばに残る者はおらず、その後戻る者もなかった。
死骸のほとんどが朽ちたころ、呪われた右足の小指だけはまだまるまると肉を遺していた。
子供がそれを豆と間違えて拾い、鉢植えに埋めて水をやる。発芽し、陽を浴び、樹木になる。

私はわたしたちに裏切られたことで充分にくたびれており、もう生きていたくなかったが、自らを終わらせる術を持っていない。

子供が言う。
大きくなったら木こりになります。
切り倒してあげましょう。

子供はすぐに大人になり、約束通り樹木を切り倒して丸太にした。
丸太は売られてゆき、職人がバイオリンに仕立てた。

冬の日、贈り物をさがしに来た女が楽器屋をのぞく。
なけなしの金をはたき、恋人にバイオリンを買う。
二人は貧しいが幸福だった。
食べ物を食べる代わりにバイオリンを鳴らし踊った。

毎日。
街中に呪いの音色が響きわたる。

人々の気は狂い、粗末な家には火が放たれ、恋人達は殺され死んだ。
バイオリンは燃えおちて、私はとうとう全き炎と成り果てる。
何もかも燃やした
女たちの死体
逃げた獣
木こり
職人
遠くに住むわたしたち全て
その街
その大地
私を消さんと涙ぐむ雨雲
空に住まうあまねく天使ども
神
ほしのすべて
宇宙であなたに救われても
あなたは私ではない
あなたの他の全ては私で、あなただけは私ではない